電通マーケティング局の現役マーケッターが、「新大衆プロジェクト」という一年半のプロジェクトの中で発見した新しい消費者動向のトレンド、「自分に似た人を探す人々」=「鏡衆(きょうしゅう)」についてまとめた新書。
「共振する消費者は、誰もがこころに鏡を持っていて、そこにうまく他者の欲求や嗜好を映し出して取り入れながら、反射拡大していく力を持っているのではないか。言ってみれば、「鏡の共振メカニズムをもつ人々」ということで「鏡衆」と名付けることとしたのである」
だそうだ。
1970年代の高度大衆消費社会から、「自分らしさの時代」とか「個性の時代」に移ってきたといわれているが、最近さらにその様相が変わってきたという
「明らかにメガヒットが増え、皆に人気があるもの、みんなと同じものを好んで消費する傾向が出てきたのだ」
「自分の立ち位置を確認するために何か拠り所が必要となり、「自分に似た人」をウォッチングするようになっている」
そういう傾向をもつ人々が「鏡衆」と呼ばれるのだそうだ。
実際に、1996年に「仲間のサルがバナナを持つ様を見た猿が、自分はバナナを持っていないのに、脳内の神経皮質で、あたかもバナナを持っているかのような反応を起こすのが確認された」という実験で、「ミラーニューロン」というニューロンが人間にもあることが確認されており、人間は自分が持つ鏡に映る他者の行動や思考などに大きく影響される動物であるということが分かっているという。
この「鏡衆」の購買行動の特徴として6つの特徴が挙げられている。
1:意味づけやイメージを商品に投影
2:友人と共感できる点を見つけて盛り上がるのが好き
3:商品を使うシーンを具体的にイメージしてから買う
4:感覚的に引き込まれやすい
5:評価がある程度定着したものを買う
6:人に影響されやすく、周囲を巻き込む影響力もある
4に関連しての
「情報の飽和化」と「感情消費への傾注(=情動化)」ということは、実はほぼ期を同じくして同時におこってきているのではないか、ということだ。高度情報社会といわれるが、それがインターネットや携帯電話の登場、テレビの多チャンネル化などとともにさらに進化した結果、かえって情報は個人の処理しきれない量に膨らんでしまい、人々は感情や感覚の力も使って処理時間を短縮するようになったのではないか。」
という考察はなるほどですね。直感的にはまさにそういうことが起きそうな気がします。
あと、後半では「文脈置換」というのが一つのキーワードとして使われています。
例えば、パナソニックの「ジョーバ」というヒット商品がありますが、これはもともと「腰痛などの治療用健康器具」という売り方がされていたのが、消費者の間でダイエット、姿勢改善などに効果があるといわれるようになっていることをメーカーがキャッチして、「ダイエット・筋力アップなどに使える手軽なフィットネス機器」として幅広いターゲット層に訴求する様になったそうなのですが、このように賞品やサービスの文脈を変えていく力を鏡衆は持っているのだという。
他にも実際に文脈置換、価値シフトを起こして成功した事例がいくつも挙げられているが、言うは易し、実際にこれを戦略的にプランするのは難しいですよね。。と感じながらも、大変勉強になる一冊でした。